詐欺師は見知らぬ人ではありません。
多くの場合、顔なじみの人間として現れます。
信頼できると思っていた人から紹介される形で…
巧妙な手口
その人は、仕事上の取引先の担当者でした。
月に数回はやり取りがある間柄で、お互いゴルフが趣味ということもあって、仕事の関係者の中では比較的仲良くしていた一人です。
ある日、先輩と3人でゴルフに行く機会がありました。
その場で「最近、面白い投資をやっているんですよ」と話が出ました。
FXの運用を代行してくれるサービスで、過去の実績も確認できる、信頼できる投資仲間から紹介してもらったと言っていました。
その日は話を聞いただけで終わりましたが、後日オンライン説明会が開かれ、先輩と一緒に参加しました。
先輩は結局投資しませんでしたが、私は50万円を試しに投資してみることにしました。
なぜ判断してしまったのか。今でも自問することがあります。
ひとつには、過去数カ月の実績を見せられて、上がり下がりはあるものの、概ね毎月プラスの実績で推移していたことです。
もうひとつは、紹介者が「FX詐欺を撲滅していきましょう」という言葉をよく使っていたことがあります。
あえて詐欺という言葉を出して否定することで、信頼感を高めようとしていたのだと思います。
そして最後に、50万円という金額の感覚です。
「100万円は試してみるにはちょっと高いけど、どうせ増やすなら50万円くらいはいるよな」という絶妙な金額でした。
そして「もし多少減ったとしても、個人の貯金の中からだし、まあなんとかなるか」と思える範囲に収まっていて、その油断が判断を甘くしました。
入金を急かされたのも、今思えば警戒すべきサインでした。
「昨日から5日間だけ、入金額の150%で運用するキャンペーンをやっている」と言われ、急いで入金手続きをしました。
50万円が、ボーナス75万円と合わせて125万円分として運用される、という説明でした。
ただ、このボーナスには条件がありました。
「一円でも引き出したらボーナス分が消える」というものです。
つまりこういう計算になります。
仮に多少利益が出たとしても、元本50万円は引き出したら、ボーナスはゼロになってしまう。
そうではなくて、2倍の250万円分まで増えるまで待って、元本50万円を引き出せば、残りはそのまま運用され続けるので、そこからはお金が増えていくだけの“キャッシュマシーン”になるという夢のような話でそそのかされました。
でも後から考えれば、出金のタイミングを先延ばしにさせるための設計でした。
判断を鈍らせた安心感
この投資をはじめてから、毎週末になるとチャットワークというビジネスチャットツールに運営からの報告が届いていました。
「今週の運用状況です」という内容で、淡々と数字が書かれていました。
初月の収支を記録していたのですが、こうなっていました。
- 元金:500,000円
- 利益:133,280円
- 運用報酬(利益の30%):39,984円
- 口座管理費(4ヶ月分一括):30,000円(月換算7,500円)
- 差引手取り:63,296円
利益が出ているように見えますが、運用報酬30%という数字は正規のファンドでは考えられない水準です。
一般的な投資信託の信託報酬は年率1〜2%程度。
月単位で利益の30%を取るというのは、それだけで異常なコスト構造です。
ただ当時の私は「利益が出ているからいいか」と深く考えませんでした。
さらに私は、MetaTrader4(MT4)というFX取引プラットフォームでほぼ毎日、運用状況を自分で確認していました。
残高の推移、取引履歴、損益グラフ。数字は動いていて、それなりに「運用されている」ように見えていました。
後から知ったことですが、MT4の表示はサーバー側の操作によって偽装することができます。
実際には取引が行われていなくても、残高が増減しているように見せることが技術的に可能なのです。
毎日自分の目で確認していたあの数字が、最初から作られたものだった可能性があります。
「自分で確認しているから大丈夫」という安心感が、むしろ判断を鈍らせていたのだと思います。
最初の異変
投資から約1ヶ月半後、最初の大きな損失が出ました。
チャットワークに運営からの連絡があり、要約すると「相場の急変でポジションが大きくマイナスになった、元本分がゼロになったがボーナスクレジットが残っているので運用は続ける」という内容でした。
このとき私は「しょうがない、気長に待つしかないか」と思いました。
今振り返ると、この判断が致命的でした…
元本50万円分がゼロになった時点で、「125万円に戻ってもプラマイゼロ、だから250万円を目指すしかない」という心理に完全に縛られていました。
ゼロになったから辞めるに辞められない。損を取り戻したい。そういう気持ちが、判断を止めてしまいました。
「損失を回復させたい」という心理は、FX詐欺に限らず投資における最も危険な心理状態のひとつです。
そしてこの構造は、最初からそれを狙って設計されていたのだと思います。
そしてついに全損
投資から9ヵ月が経ったある朝のことです。
ふとアカウントを確認したら、残高がゼロになっていました。
何が起きたのか、最初は理解できませんでした。システムのエラーかと思いました。でも何度確認しても、数字は変わりません。
残高が全てなくなっていました。
その日の夜、紹介者からLINEが届きました。
内容は要約するとこういうものでした。
マイナスのポジションを持ったまま週末を越してしまい、全損してしまった。
過去の実績を確認した上で信頼できると判断して紹介したが、このような結果になってしまい心苦しい。
個人的に何らかの形でお返ししたい。
運営からの対応説明を待ってほしい。
読みながら、不思議と怒りはすぐには来ませんでした。
頭が真っ白になる、というのはこういう感覚なのかと思いました。
そのときの気持ち
しばらく経ってから、じわじわと気持ちが湧いてきました。
怒り。情けなさ。そして、簡単に騙されたことが恥ずかしく誰にも言えないという感覚。
仕事の取引先の人が絡んでいるという事情もあって、すぐに誰かに話せる状況ではありませんでした。
その後しばらくは、一人で抱えていました。
先輩に話せたのは、他の投資が軌道に乗ってきて気持ちが落ち着いてきた、だいぶ後のことです。
そして当然ですが、50万円は戻ってきませんでした。
MAM詐欺——あのとき気づけなかったサイン
この件を振り返るにあたって、改めてMAM(Multi Account Manager)という仕組みについて調べました。
自分自身も当時は知らなかったので、同じ目に遭わないための知識として書いておきます。
MAMとは何か
MAMとは、一人のトレーダーが複数の口座をまとめて運用できるシステムのことです。
正規の投資管理ツールとして存在していますが、詐欺に悪用されるケースが多いことでも知られています。
詐欺に使われやすい理由は、仕組みの不透明さにあります。
運用の実態を外から確認しにくく、「毎月プラスの実績がある」という資料を偽造することも難しくありません。
見分けるための5つのポイント
今回の件を踏まえて整理すると、以下のような点が警戒のサインになります。
① 紹介者を通じた勧誘
金融庁に登録された正規の業者は、個人の紹介を通じた勧誘を基本的に行いません。
「信頼できる人からの紹介」という形をとることで、疑いを持たせにくくする手口です。
② 期限付きボーナスで急かしてくる
「今週中だけ150%で運用」「キャンペーン期間中に入金を」という言葉で焦らせる手口です。
さらに「1円でも引き出したらボーナスが消える」という条件をつけることで、「プラマイゼロで終わりたくない、もっと増やしてから出金したい」という心理を利用し、出金のタイミングを先延ばしにさせます。
③ 月5〜10%という高すぎるリターン実績の説明
年換算すると60〜120%になります。
FXのプロトレーダーでも、これほど安定したリターンを出し続けることは極めて困難です。
「夢のある数字」に聞こえますが、それ自体が警戒のサインです。
④ MT4などの取引画面を「証拠」として見せてくる
MT4は広く使われている正規のFXプラットフォームですが、サーバー側の操作によって残高や取引履歴を偽装することが技術的に可能です。
自分の目で確認したから安心、とはならないということです。
⑤ 連絡ツールが非公式
チャットワークやLINEなど、記録が残りにくいツールでのやり取りが中心になっている場合は要注意です。
正規の業者は基本的にメールや公式チャンネルで連絡します。
「信頼できる人の紹介」というフィルターと、「自分で毎日確認している」という安心感が、判断力を完全に曇らせていました。
変わることを決意
50万円を失ったことは、単純に痛かったです。
それと同時に、「このままではいけない」という気持ちが強く湧いてきました。
お金のことを、他人任せにして、自分で学ばなければ、また同じことが起きる。
紹介者を信頼したことへの後悔よりも、自分自身が何も知らなかったことへの悔しさの方が大きかったように思います。
先に書いたグロソブでの損失経験や、この経験が直接のきっかけになって、資産運用の勉強を独学で始め、その後インデックス投資をスタートさせました。
次の記事では、その話を書こうと思います。
失敗は取り消せません。でも、そこから何を学ぶかは、自分で決められます。
臆病なハリネズミ父さんが、やっと本気で動き始めた瞬間でした。
おわりに
もし「知り合いからFX代行を紹介された」「毎月安定した利益が出ると説明された」というような話を持ち掛けられた方がいれば、今一度立ち止まって確認してみてください。
紹介者が悪意を持っているとは限りません。
今回のケースでも、紹介者自身も被害者の一人だった可能性もあります。
でも、だからといってお金は戻ってきません。
最終的に判断するのは自分自身です。
※このブログは筆者個人の体験・見解をもとにした記録です。
特定の投資商品・手法を推奨・勧誘するものではありません。
投資判断はご自身の責任において行ってください。

